続々と環境にやさしい「木造ビル」が登場。技術の進化で木造建築も進化

本記事はLIFULL HOME’S 不動産投資からの寄稿記事です。
木造といえば、一戸建て住宅など1~2階建ての建物をイメージする人が多いでしょう。しかし、2020年の建築基準法の改正、2021年の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」により、木材利用の推進対象が一般建築物に広がり、最近では木造の「高層ビル」が登場しています。今後はSDGsの実現に向けて、環境にやさしい木造ビルが広がっていくかもしれません。
そこで今回は、木造ビルについて解説します。木造ビルのメリットや課題、建築事例なども解説しますので、興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
環境にやさしい「木造ビル」とは?
木造ビルとは、構造材として木材を使用している中高層建築のことをいいます。中高層建築といえば鉄骨造や鉄筋コンクリート造が一般的ですが、最近では木造技術の進化により木造の高層ビルの建築が可能になりました。ここでは、木造ビルのメリットや課題について解説します。
木造ビルのメリット
木造ビルにおける大きなメリットは、国内産の木材を利用できることにあるでしょう。一般的な中高層建築で使用される建材の多くは、海外からの輸入に頼っています。そのため、国内産の木材を活用できれば、林業が活性化されて山林の荒廃防止につながるメリットがあるのです。
さらに、木材を利用することは、炭素の固定・エネルギー集約的資材の代替・化石燃料の代替といった面で地球温暖化防止にも役立ちます。木造住宅は鉄筋プレハブ住宅・鉄筋コンクリート住宅と比較すると約4倍の炭素を貯蔵していること、木材は鉄・コンクリート等よりも製造や加工に必要なエネルギーが少ないことが知られています。木造にすることで、二酸化炭素排出量の削減につながるといえるでしょう。
そのほか、木造の場合は鉄骨造・鉄筋コンクリート造よりも建物の重量が軽いため、建物を支える基礎工事にかかる費用を抑えることが可能、木造のほうが断熱性は高くランニングコストを抑えやすいなどのメリットもあります。
木造ビルの課題
木造ビルには上記のようなさまざまなメリットがある一方で、実際に木造で高層ビルを建築するには耐火性・耐震性などの課題がありました。
高層ビルで火災が起こった場合、上階にいる人たちが地上に避難するまでには時間が必要となるでしょう。現行の建築基準法施行令第107条では、耐火性能の基準の一つとして最上階から数えた階数や部材によって耐火時間が定められています。たとえば、最上階から数えて4番目の階までは1時間耐火、5~14番目の階は2時間耐火、15番目以降の階は3時間耐火です。このような耐火基準をクリアしなければなりませんが、木造建築で2時間以上の耐火性能を満たすことは技術など難しい面があったのです。
木造ビルが実現可能になった理由の一つには、新しい建材である「CLT」の存在があるでしょう。CLTとは、繊維方向が直角に交わるように積み重ねて圧着した木質性材料のこと。強度があり、断熱性や遮炎性、遮熱性などの効果も期待できる木材です。CLTは欧米を中心に木造の中高層建築等のさまざまな建築物に活用されています。日本でも、木造ビル等の建築に利用されている事例があります。
ただし、CLTの活用には加工費などの面でコストがかかります。また、木造建築の規模が大きくなればなるほど、耐火性・耐震性といった性能面も重要になってくるでしょう。今後も木造技術の研究・開発が期待されます。
木造中高層建築の事例
ここでは、日本で実際に建築されている木造の中高層建築をご紹介します。
KITOKI(東京都中央区)
平和不動産が手がけた木造ハイブリットビル「KITOKI」。2022年4月に竣工された木造および鉄骨鉄筋コンクリート造の地上10階建てビルで、SRC造による3層飛ばしのメガストラクチャー内部に木造が内包される構造です。構造体や内外装、型枠材の加工・二次利用として「木」を有機的に活用していることも特徴の一つ。国土交通省「令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されています。
Port Plus(神奈川県横浜市)
Port Plusは、大林組が建築した2022年3月に竣工の高層純木造耐火建築物です。主要構造部(柱・梁・床・壁)がすべて木造であるのが大きな特徴です。LVL剛接十字仕口ユニットの開発や木の柱梁として3時間耐火認定を取得するなど新技術を駆使して、従来の木造建築では不安要素であった耐火性・耐震性を確保しています。
MOCXION稲城(東京都稲城市)
MOCXION稲城は、2021年11月に竣工された地上5階建ての木造賃貸マンションです。国土交通省「令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されています。1階部分が鉄筋コンクリート造、2~5階部分が耐震木造となっており、耐震性・耐久性を確保しながら木の心地よさを感じられる住まいが実現しました。なお、「MOCXION(モクシオン)」は三井ホームが手がける木造マンションの新ブランドであり、MOCXION稲城はその第1号物件です。
プラウド神田駿河台(東京都千代田区)
野村不動産が建築主として事業を企画し、竹中工務店が設計・施工を行ったハイブリット木造高層分譲マンション「プラウド神田駿河台」。地上14階建て、2021年3月に竣工されました。2~11階は単板積層材(LVL)とLVLハイブリッド耐震壁、12~14階には、「CLT耐震壁」と「燃エンウッド」が採用されています。構造部材に国内産の木材を使用していることも特徴です。
イニエ南笹口(新潟県新潟市)
全階木造の地上5階建て木造マンション「イニエ南笹口」。シェルターが開発した2時間耐火構造仕様の木質耐火部材「COOL WOOD」の採用により、1~5階まですべて木造のマンションが実現しています。
賃貸物件における構造割合
賃貸物件における構造の割合は、現状どのようになっているのでしょうか?ここでは、LIFULL HOME’Sに登録されている東京都の賃貸物件から構造割合を確認してみましょう。
構造 | 総物件数 | 割合 |
---|---|---|
木造系 | 211,278件 | 約19.4% |
鉄骨系 | 211,494件 | 約19.4% |
鉄筋系 | 664,004件 | 約60.9% |
ブロック・その他 | 3,860件 | 約0.4% |
2022年9月16日時点の構造割合を見てみると、最も多いのが「鉄筋系」で約6割を占めています。都心は特に広い土地を確保しにくいことから中高層建築の需要が高いため、鉄筋系の物件割合が高くなっていることが考えられるでしょう。
一方で、「木造系」は2割程度にとどまっています。しかし、今後さらに木造技術が発展して中高層建築に活用されていけば、都心の狭小な土地を利用した木造賃貸マンションも増えていくことが期待できるでしょう。SDGsや脱炭素が注目されている今、木を活用した新しい住まいが広がる可能性が考えられます。
不動産投資物件として環境にやさしい木造ビルが今後注目される可能性も
耐火性・耐震性などの面から建築が難しかった「木造ビル」。最近では木造技術の進化により、木造の中高層建築が実現しています。中高層建築の需要が高い都心で木造ビルが増えていけば、国内産の木材を活用して林業が活性化されたり、地球温暖化防止に役立ったりすることにもつながるでしょう。今後も木造技術の研究・開発に注目です。
2022年9月16日時点でLIFULL HOME’Sに登録された賃貸物件の構造割合を見ると、東京都では「鉄筋系」が約6割を占めていました。一方で、「木造系」の割合は約2割。広い土地を確保しにくい都心では中高層建築の需要が高いため、今後は技術の進化により中高層の木造賃貸物件が増える可能性も考えられます。環境に配慮された木造建築物について、不動産投資物件という視点からも注目していきましょう。

LIFULL HOME'S 不動産投資編集部
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