新しい投資の可能性―分散型金融(DeFi)とは?

昨年末の関係閣僚会議において、「デジタル庁」が非常勤職員を含めた500人体制で本年9月1日に発足することが決まり、日本のIT化促進の行方に注目が集まっています。
人口減少の問題は、これまでの経済成長を前提としたあらゆる政策の見直しを迫りますが、中でも、社会インフラの「デジタル化」が他の先進国に比べて大きく後れを取ってしまった事実は皮肉にもコロナ禍においてクローズアップされることとなりました。
身近なところでも、対面が原則の商慣習、医療機関での診察や金融機関の手続きなどにおいて、需要に押される形で変化が起きています。
こういった効率化を模索する流れの中、「投資」の方法においてもデジタル化の試みは少しずつ広がっています。株式等のオンライン取引やネットバンキングはもとより、最近ではAIによる運用助言や投資一任サービス(ロボアドバイザー)の利用がミレニアル世代を中心に増えているといいます。日本におけるロボアドバイザー最大手であるウェルスナビの預かり資産は3,000億円を超えたそうです。
このように日本の投資におけるデジタル化も徐々に浸透してきていますが、今回はその一歩先を行く、新しい投資の可能性としての「分散型金融(DeFi、ディーファイ)」について見ていきたいと思います。
「金融危機」が促進した分散型金融の技術
分散型金融(DeFi)を見ていく前に、まずは昨年後半から急騰し、注目を集める「分散型」の有名どころ「ビットコイン」を思い出していただきたいと思います。ビットコインのベースとなっている「分散型台帳」の理論は、2008年の金融危機時にマーケットがマヒする中、金融エンジニアたちの間で注目が集まりました。国や金融機関が形作る「中央集権的」な仕組みを迂回し、「価値の移転」を相対で安全に行う試みとして急速にセンターステージに躍り出たのです。
近代において、金融機関は厳格な法規制をクリアした「信用」の下で、経済活動のあらゆる仲介の役目を担ってきました。しかし、バランスシート上に積み上がったバブルが弾け、信用というその根本が揺らいだのが世界金融危機でした。中央集権の信用構造に代わる仕組みが必要なのではないか?それまではある意味ギークな位置にいたブロックチェーン技術に対してスポットライトが当たった瞬間でした。
「分散型」イコール「税逃れ」や「リバタリアン」?

2017年、JPモルガンチェースのCEOであるジェーミー・ダイモン氏が「ビットコインは詐欺だ。チューリップの球根よりなおひどいことになるだろう」とコメントしたように、当時はアメリカにおいても、特にウォールストリートのエスタブリッシュの間でビットコイン等に対する懐疑的な意見が多かったのも事実です。マウントゴックス事件など、紛失事例を見ると、確かに「危ない」というリアクションは自然ですし、流出した一部が資金洗浄され、持ち主の下に戻らなかったというのも事実です。しかし、それは分散型台帳という技術自体の脆弱性に起因するのではなく、その管理方法に問題があったとするのが一般的な見方でしょう。
ちなみに、ご参考まで、この記事を書いている時点の過去24時間のビットコインのボリュームは約840億米ドルとなっています。これは直近(2019年4月)のBISデータ上、1日当たりの日本円の取引高である約1.1兆米ドルの7.5%ほどにまで膨らんでいます※。もはや投資家にとって無視できる規模ではなくなり、ヘッジファンドや企業など機関投資家がポートフォリオに資産として加える動きやPayPalによる決済手段への追加が伝えられると、その価格は更に押し上げられました。
そもそも、何が「分散化/Decentralization」のポイントなのでしょうか。
シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルの一つであるアンドリーセン・ホロウィッツのジェネラルパートナーであるクリス・ディクソン氏は、かつて、中央集権型におけるデメリットを指摘しつつ、「分散化を提唱する人々の意図が政府の監視に対抗することやリバタリアン的な政治思想にあると誤解されている※」と述べています。
分散化のポイントとは、オープンな環境において切磋琢磨する中から生まれる、中央集権システムでは実現困難な技術革新とその圧倒的なスピード感にあると言えます。「中央集権型」に対して、「分散型」の技術は不完全な状態の取り組みから始まり、次々現れる協力者から複合的なフィードバックを得ながら、「指数関数的」に成長していきます 。
一国の政府であれ、私企業であれ、中央集権的な機構の下ではイノベーションは生まれにくく、生まれたとしても組織の論理によりスピードが制御されてしまいがちです。GAFAMはいずれも革新的な企業ですが、今や、その時価総額は東証2170社のそれを上回る規模となり圧倒的な市場支配力を持つ世界的社会インフラとなりました。これら「中央集権的」な力を持つに至ったプラットフォーマーは、場を利用するスタートアップ企業に対し圧倒的優位に立ち、そのイノベーションを抑制しているとの批判も高まっています。エンドユーザーに対するプライバシー問題も各国において大きな問題となっています。
分散型金融の取り組み

もともと技術革新と親和性の高い金融市場においても、この分散型の取り組みが急速に盛り上がっています。特に、足もとのコロナ禍対応で、主要国が積極的に金融・財政政策を出動させたために法定通貨資産の希薄化(相対的な価値の目減り)が生じ、代替資産への資金移動が顕著となっているのは前述の通りです。
ここからその代替資産の真打ともいえる主な分散型金融:DeFiについて紹介していきたいと思います。
- DEX(Decentralized Exchange 分散型取引所)
ブロックチェーンあるいは分散型台帳において、スマートコントラクト等を利用し、P2P(、peer to peer、相対)の資産の同時履行(DVP:Delivery Versus Payment)を可能にする仕組みです。従来の中央集権型の取引所である証券取引所や、銀行などを介した取引のように、参加者は仲介者に対するリスクをとる必要がないばかりか、自分は支払ってしまったが、相手から支払いがなされないという「決済リスク」もありません。
現在DEXには➀オーダーブック方式、②AMM(Automated Market Maker)の2つの方法があります。前者が基本的にブロックチェーン外(オフチェーン)で取引のマッチングを行うのに対して、後者は流動性供給者(Liquidity Provider)が予めオンチェーンの流動性プール(Liquidity Pool)に暗号資産を供給し、参加者は流動性プールに対して取引を行うことになります。後者の代表的なものには、Uniswap, Sushiswapがあります。いずれも場を提供していますが、取引を仲介する者は存在せず、参加者同士の相対取引がスマートコントラクトにより実行されています。
- カストディ
資産の保管、受渡や権利行使といった伝統的な業務に加えて、オンチェーンのガバナンスや投票への参加などの資産管理業務をスマートコントラクトにより実施するサービスです。通常はコールドストレージで秘密鍵による管理をおこないますが、急速に進化するDeFiの投資家ニーズに対応するため、新しい技術が次々に開発されています。例えば、投資家が取引所の最新のバランスを即時に確認可能な「trustless」なサービスがあります。
- イールドファーミング、レンディング、ステーキング
投資家が自己の保有する暗号資産を運用することにより利益を得る方法で、DeFiの中でも急速に進化している分野です。中央集権的機構や仲介者を必要とせず、だれでもスマートコントラクト等を通して参加できる「Trustless」な運用方法です。イールドファーミング(Yield Farming)は流動性マイニング(Liquidity Mining)とも言われ、手持ちの暗号資産を一定期間、流動性プール(Liquidity Pool)にロックアップすることにより、暗号資産による報酬を受けるとります。報酬には、資産を保有しつつブロックチェーン上のオペレーションに参加すること(ステーキング)への報酬、レンディングによる利息など、流動性の提供による何らかの手数料があります。
代表的なサービスにはCompoundやMakerがあります。
ちなみに、「Trustless」とは、信用ならないという意味ではなく、「管理者に対する信用を必要としない」と考えると分かりやすいでしょう。また、Yield Farmerに対して、暗号資産を購入し、そのまま保有し続ける投資家はHODLer(Hold on for Dear Life)と呼ばれています。
- ステーブルコイン
ステーブルコインとは、法廷通貨や金などのその他の資産に裏付けられた(ペッグした)デジタル資産をいい、米ドルを裏付としたUSDT(テザー)の時価総額は20億ドルを突破しています。その名の通り裏付けがあるために値動きは安定しています(ボラティリティが低い)。国を跨いだECサイトの決済などで利用されています。
先ごろ、米国通貨監督庁が国内の銀行に対し、カストディ業務に加えて、ステーブルコインの取扱いを認めたことから、同分野への銀行の参入の活発化も予想されます。
また、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の取り組みも急ピッチで進んでいます。こちらはパブリックチェーンではなく、プライベートチェーンが前提であることから、同じブロックチェーン技術を使っていても、分散型ではなく中央集権型の延長であると言えます。
- その他
以上の他にも、既存の金融マーケット商品である保険やオプションなど、様々なサービスが生まれています。これらDeFiプロトコルのロックされた資産の残高はdefipulseで見ることができます。
まとめ
ここまで見てきた通り、DeFiはその分散型という特徴から、LEGOブロックのように、誰もが自由に部品(モジュラーなど)を組み合わせることによりイノベーションが生まれ、どんどん変化する、いわゆる「Composability」の世界です。投資家としてこの最先端の世界に参入するには大きなリスクを認識する必要がありますが、一方で、従来の中央集権型のシステムによるリスクコントロールを取り入れた折衷型のサービスも生まれています。
以上、DeFiについて見てきました。今後も皆さんの新しい技術についての知識獲得のきっかけになるようなご紹介をしていきたいと思います。

LIFULL 不動産クラウドファンディング編集部
金融分野全般に視野が広いライターと、不動産クラウドファンディングに精通した校閲メンバーにて構成。投資家目線のわかりやすい記事を届けることをモットーに、不動産クラウドファンディングを中心とした投資お役立ち情報をお届けします。