デジタルトークンとは?

「トークン」とは特定の価値を代替するものです。かつてイタリアの公衆電話ではGettoneという「トークン」のみが使用できました。これは何処でも使える通貨ではなく、通話という目的に限って価値があるもので、電話機ごと盗むインセンティブを削ぐ効果があったのでしょう。こういったトークンは今ではスマホの中に納まっています。
現代においては、「デジタルトークン」(デジタル権利証)がデジタル世界において進化し、様々な利用価値を持ったものがそれぞれの用途に応じて使われています。
欧米ではこれらのデジタルトークンをユーティリティトークン(Utility Token)、ペイメントトークン(Payment Token)、セキュリティトークン(Security Token)の3つのカテゴリーに整理しています。かつてのGettoneはアナログなペイメントトークンに分類されます。
これからそれぞれの内容を見ていきたいと思います。
ユーティリティトークンは共同運営組織の会員権のようなもの?
ユーティリティトークンとは一言でいえば、サービスを受ける際に利用するトークンです。これを保有していれば、ブロックチェーン上の特定のプロジェクトのネットワークにアクセスができ、ネットワークの運営に対して投票(Voting)する権利があり、通常は発行量に上限が設けられているので、値上がり益を期待することもできるというものです。
2017年にブームとなったICO(Initial Coin Offering)における発行の対象がこのユーティリティトークンです。そもそもICOとはIPOに倣った略語で、IPOが投資家に株式を付与するのにたいして、ICOでは株式の代わりにユーティリティトークンを付与します。米国の証券取引法が直接規制していないため、この抜け穴を利用して杜撰な計画で資金集めをするケースも目立ちました。2017年12月、SECによるMunchee IncのICO計画への介入以来、ICOによる発行がユーティリティトークンであっても、その実態がHowey Test(※)に照らして有価証券と判定されれば、そのICOは証券取引法に準拠することとなりました。以降、ICOの件数は激減しています。しかし、これで「ユーティリティトークン」の存在が全て否定されたわけではありません。「主に第三者の役務により得られる配当等の収益を期待して共同事業に対して行う投資」ではない、という点において、中間事業者や管理者がいない分散型の世界にはピュアなユーティリティトークンが理論上存在するはずです。
ペイメントトークン=暗号資産
欧米における整理によると、ペイメントトークンとは「財やサービスに対する支払い手段」とされ、日本では以前、仮想通貨と呼ばれるものに含まれていましたが、2020年5月に施行された改正資金決済法では「暗号資産」と定義されました。欧米におけるデジタルトークン全体をさす「Crypt Asset」と混乱しやすいので要注意です。
具体的にはBTC(Bitcoin)やDiem(旧Libra)などのいわゆる決済性を有するトークンを指します。BTCに次ぐ取引ボリュームを誇るETH(Ethereum)はペイメントトークンでもあり、またスマートコントラクトを実行するための手数料として機能するのユーティリティトークン的な側面も持っています。
セキュリティトークンと電子記録移転権利
「セキュリティトークン」とは「アセットトークン」の一種であり、有価証券を裏付けに電子的に発行され、その権利を表象するトークンのことをいいます。日本では2020年5月の改正金融商品取引法で、デジタル技術によりトークン化された「みなし有価証券」が「電子記録移転権利」と定義され(ただし流動性などを勘案して例外あり)、上述の「暗号資産」と明確に区別されました。
一方で、セキュリティトークンとユーティリティトークンの区別は場合によっては困難です。セキュリティトークンとして発行されたものが、ユーティリティトークンの性質をもったサービスを展開することもあり得ます。また、ユーティリティトークンであっても、SECの基準から見るとセキュリティトークンとみなされることがあることは前に述べた通りです。
その他―ステーブルコイン、CBDC
その他のトークンとして、まずは「ステーブルコイン」があげられます。米ドルやユーロ、円といった法定通貨にペッグ(固定)されているため、その名の通り、値動きが安定していることが特徴のデジタルトークンです。代表的なものに米ドルペッグのUSDCやUSDTがあります。また、2つ以上の法定通貨のバスケットや、金などの貴金属にペッグさせるステーブルコインもあります。Facebookがローンチを予定しているDiem(旧Libra)も主要法定通貨にペッグすることを検討しているようです。
一般的なペッグは、裏付となる通貨や資産などをカストディに預け入れることにより価値の維持を担保します。また、計算モデルに従ってAIでヘッジトレーディングを行うという手法もあるようです。
ステーブルコインは、言わばデジタルトークン界のペイメントトークンです。ボラティリティの高いデジタルトークンのトレーディングを行うトレーダーは、損益を確定する際に、法定通貨である米ドルではなく、取引コストの低いステーブルコインを使うでしょう。また、BTCを無形資産として計上した事業会社は、そのブックの調整をする場合には、やはりステーブルコインを使用するかもしれません。
次に、中央銀行が発行するネイティブトークンとしてのCBDC(Central Bank Digital Currency)があります。CBDCとは一般的に、①デジタル化されたコインであること、②法定通貨建であること、③中央銀行の債務として発行されること、と定義されます。銀行券(紙幣)をデジタル化することにより、マイナス金利の深堀りなどの金融政策運営が容易になるほか、資金の流れを把握することでマネーロンダリングを防げる、資金決済コストが下がり、業務を効率化できる、などがメリットとして指摘されています。
日本銀行は欧州中央銀行と共同でDLTに関する調査プロジェクト(ステラ)を立ち上げ、検証を行っていますが、現時点では具体的な発行の計画はないとのことです。
まとめ
以上、現時点でのデジタルトークンの大まかな種類を見てきました。新領域であるDLT(Digital Ledger Technology)はスピードを上げて発展中です。少なくとも近い将来、そのベクトルが逆向きになることは考えにくいことを前提に、用語の定義もさることながら、その進化を常に追いかけつつ、私たちの生活に何がどう役に立つものなのか、実態を理解していきたいと思います。
